
近年、白血病などの造血器腫瘍や骨髄不全症の治療は大きく進展し、完治が期待できるケースも増えてきました。しかし、依然として治療が難しい患者さんもいらっしゃいます。そのような場合には、他人から提供された造血幹細胞を用いて血液を置き換える「同種造血幹細胞移植」という治療が必要になります。
近代的な同種骨髄移植は、1970年に米国のE.D. Thomas博士らによって始められ、その後ノーベル賞を受賞するまでに至りました。日本では1975年に名古屋、大阪、金沢で初めて実施され、四国では1988年に香川で初めて行われました。当院では翌1989年から移植を開始し、その後も数多くの症例を経験してきました。
1993年には、四国で初めて非血縁者間骨髄移植の移植・採取施設として認定され、1996年には血縁者間末梢血幹細胞移植、2001年には臍帯血移植を導入し、より多くの患者さんが造血幹細胞移植の恩恵を受けられるよう体制を整備してまいりました。その実績が評価され、2015年には厚生労働省から四国ブロックの「造血幹細胞移植推進拠点病院」に認定されました。
この事業では、以下の目標を掲げています。
1. 適切な時期に、適切な種類の移植を提供する。
2. 地域に関わらず、誰でもより安全に移植を受けられる。
3. 移植後も生活の質を保ち、長期にわたるフォローアップを受けられる。
4. 社会復帰を支援し、地域で安心して暮らし続けられる環境を整備する。
四国は、超高齢化、少子化、人口減少という重要な課題に直面している地域です。この事業がなければ、移植に関わるスタッフの育成が進まず、四国で造血幹細胞移植医療を提供することが難しくなっていたでしょう。その結果、患者さんは海を渡って治療を受けに行かなければならなかったかもしれません。
事業開始以来、移植認定医や認定移植コーディネーター(HCTC)、長期フォローアップ研修を受けた看護師の数は着実に増加しています。毎月開催しているHCTCミーティングや年2回の地域拠点病院との連絡会議、症例検討会(医師向け)などを通じて、情報交換を行い、課題の解決に努めてきました。また、移植看護研修や骨髄バンク、臍帯血バンクとの連携強化などにも取り組んでいます。
四国は将来の日本の縮図ともいえる地域です。我々の地域での取り組みは、全国の地域医療にもきっと役立つものと信じています。これからも、四国での持続可能な移植医療の提供体制を整備し続けてまいりますので、引き続きご支援をよろしくお願いいたします。
令和6年8月愛媛県立中央病院 血液内科名和由一郎