更新日:2023年11月9日

前立腺がん

前立腺がんについて

前立腺がんとは

2019年度の悪性新生物による死亡統計によると、前立腺がんによる日本の総死亡者数は12,544人であり、人口10万人に対する男性の年齢調整死亡率は20.8人で、肺がん・胃がん・大腸がん・膵臓がん・肝臓がんに次いで第6位です。また2017年の罹患数が多い悪性新生物では、男性において前立腺がんが91,215人で1位となっています。食生活の欧米化や環境因子などが増加の原因と推定されていますが、はっきりした増加原因は不明です。

前立腺がんの検査と診断

血液検査(PSA検査)によるスクリーニング(拾い上げ検査)を行うことが一般的です。問診、直腸診、エコー検査を行った上で、がんが疑わしい場合には、針生検による病理組織診断を行いグリソンスコア(組織学的悪性度)等の評価をすることとなります。針生検は泌尿器科では1泊での検査入院で行っています。

一般にはPSAが4.0ng/mlを目安とし、これ以上ならば生検を行う場合が多いのですが、年齢や全身状態など考慮し生検適応を決めることとなります。一般に4ng/ml<PSA<10ng/mlでは前立腺がんの見つかる可能性は25~30%、10ng/ml以上で50~80%と言われています。

生検でがん細胞が見つかった場合は、造影CTやPET-CT によりリンパ節転移の有無、精嚢浸潤などの前立腺被膜外へのがん浸潤を検査し進行度を評価したうえで手術や放射線による局所治療の適応を決定します。

治療

当院での前立腺がんの手術療法の特徴

前立腺を摘出する方法は、2008年までは開腹手術を行っていました。2009年5月から腹腔鏡下前立腺全摘除術(腹腔鏡という内視鏡を使って行なう手術)を開始し、2012年からはダ・ヴィンチ手術(医療ロボット手術)を県下で初めて導入しました。2020年にはダ・ヴィンチXiを導入し現在2台体制となり、手術までの待機期間も短縮しています。

ダ・ヴィンチは3次元立体画像を表示でき、術者はそれを見ながらロボットアームを操作することで手術をします。ロボットの手先は腹腔鏡手術で使う鉗子と違い、多関節の鉗子であるため、人間の手よりも自由度が大きく細かい作業が可能となります。また、手振れもしません。すでに650例以上ロボット手術を行い、良好な成績を得ています

出典:da Vinci手術実績(泌尿器科)

放射線療法

当院では放射線治療として強度変調放射線治療(IMRT)が可能です。IMRTとは、専用のコンピュータを用いて、照射野の形状を変化させたビームを複数用いて、腫瘍の形に適した放射線治療を行う新しい照射方法です。腫瘍に放射線を集中し、周囲の正常組織への照射を減らすことができるため、副作用を増加させることなく、より強い放射線を腫瘍に照射することが可能になります。放射線療法の許容範囲はほぼ全ての病期に対してであり、がんが前立腺に留まっているなら根治が期待できます。また骨転移を有する去勢抵抗性前立腺癌の患者さんには、塩化ラジウム(Ra223)なども使用しています。

内分泌療法

ホルモン療法とも言われます。前立腺がんは、男性ホルモン(アンドロゲン)が刺激になってがんが分化・増殖する(ホルモン依存)ため、男性ホルモンの分泌や作用を抑えて、がん細胞の増殖を防ぐ事が内分泌療法の目的です。 内分泌療法は、がんが前立腺の被膜を越えた場合や、周辺臓器にまで拡がっている局所浸潤がんの場合(T3からT4)、離れた臓器に転移のある進行がん(N1、M1)、体力的に前立腺全摘除術、放射線療法等の根治療法を受けることが難しい高齢者などに適応があります。

化学療法

化学療法とは抗がん剤治療の事です。2004年にアメリカで承認されたドセタキセルが2008年8月から、さらに2014年からカバジタキセルが保険適応となり、それまで抗がん剤が効かなかった前立腺がんにも抗がん剤での治療が可能となりました。一般的には内分泌療法(ホルモン療法)の効果がなくなり、がんが再燃した場合に施行しています。

また、2014年に保険適応になったエンザルタミド、アビラテロンは、転移性前立腺がん患者における画像検査上の進行と死亡のリスクを低減できることがわかっています。化学療法の開始を遅らせることも示されています。2019年にはアパルタミド、2020年にはダロルタミドが承認され、予後(病勢進行、生存率)の改善が期待されています。

当院ではがん治療認定医が、患者さんの状態を見ながら適切なタイミングでこれらの薬を投与し、治療を行っています。

待機療法

PSAの普及のため、早期の前立腺がんが診断されることが多くなってきています。一般的には初期がんなら直ちに治療と考えられますが、前立腺がんは進行が非常に遅いものがあり、早期に発見された場合なら、無症状のまま経過しても前立腺がんそのものが死亡原因にならないケースもあります。そのため、治療をせずに当面は経過を観察していくという方法があります。
待機療法では不要な過剰治療を避け、合併症のリスクを回避するのを目的としています。何も治療しないことだと誤解されがちですが、定期的にPSA値を測定するなど、徹底した監視下のもとで行われます。待機療法の臨床試験(厚生労働省研究班の調査)において、前立腺がんの患者さんで待機療法が適切と判断された118人の内、84人が治療不要と判断され、5年以上経っても多くが無治療のまま経過観察を続けている状況が確認されており、不必要な治療を避けることができる可能性があります。

以上のように、前立腺がんは治療選択肢の多い疾患であるといえます。前立腺がんと診断された場合は、上記の色々な方法を主治医と相談しながら決めていくことになります。わからないことや疑問点はどんどん主治医に質問し、納得したうえで治療を受けることが大事です。

院内がん登録データ

前立腺(2021年1月~12月)

登録数と男女割合

登録数と男女割合(前立腺)

年齢

年齢(前立腺)

詳細部位別登録数

 詳細部位別登録数(前立腺)

UICC TNM 治療前ステージ別登録<症例区分20~31(自施設責任症例)、病期分類対象のみ>

UICC TNM 治療前ステージ別登録(前立腺)

UICC TNM 術後病理学的ステージ別登録<症例区分20~31(自施設責任症例)、病期分類対象のみ>

UICC TNM 術後病理学的ステージ別登録(前立腺)

UICC TNM 総合ステージ別登録<症例区分20~31(自施設責任症例)、病期分類対象のみ>

UICC TNM 総合ステージ別登録(前立腺)

UICC TNM 総合ステージ別 治療の件数<症例区分20~31(自施設責任症例)、病期分類対象のみ、自施設で実施した初回治療のみ>

※件数は延べ件数。外科的治療と化学療法を組み合わせて行った場合には、どちらの項目でもカウントされる。

UICC TNM 総合ステージ別 治療の件数 1期(前立腺)
UICC TNM 総合ステージ別 治療の件数 2期(前立腺)
UICC TNM 総合ステージ別 治療の件数 3期(前立腺)
UICC TNM 総合ステージ別 治療の件数 4期(前立腺)

ページの先頭へ