更新日:2023年11月15日
da Vinci ロボット支援手術
人類は地球から宇宙を目指して人工衛星やロケットを打ち上げています。未知の空間にみな興味津々です。
しかし地球上にも、まだ明確に分かっていない小宇宙があります。それが人体です。以前から医学の画像診断の進歩は目を見張るものがあり、腫瘍などが立体構造で認識できるようになりました。それが実際の体の中ではどうなっているのだろうと、人類は体内を見たくて仕方ありませんでした。
以前は体を大きく切開してそれを確認してきましたが、現在は切開せずに確認することが可能となり、かつて夢物語だった人類の探求心がロボット支援手術で実現されたのです。小さな穴から高精度のカメラが体内に入ることで、小人となって体内の小宇宙に入り込み、自由自在に手術するイメージがロボット支援手術です。
ロボット支援手術は医師であれば誰でもできるわけではありません。当院では外科系の各科にはロボット支援手術の免許を取得している医師が多数在籍しています。ロボットの特性を十分に理解した医師が責任を持って手術を行っています。
ロボット支援手術とは
小さな穴からの操作が可能となり傷の痛みは軽減され、人の手が入らないので創部感染症が激減し、高精度のカメラが体内に入ることで詳細な解剖を認識できるようになりました。
3Dの拡大画像なので今まで見えなかった解剖がわかり、繊細な剥離や縫合を行うことができます。近づきたければいくらでも近づくことができ、人間の手より多い関節機能があるため、人間にはできない広範囲の動きが可能です。また手が震えないため確実性の高い操作が可能です。
手術支援ロボット3つの機器
手術支援ロボットはサージョンコンソール、ペイシェントカート、ビジョンカートの3つの機器によって構成されています。
ロボット支援手術のメリット
当院の手術実績
当院は、2012年に保険適用となった前立腺がんの手術から開始し、まだ保険適用外でしたが2013年から直腸がん、2014年から膀胱がんにも行ってきました。2016年から腎がん、2018年から胃がん、直腸がん、肺がん、膀胱がん、さらに2020年から腎盂形成術と仙骨膣固定術が保険適用になりましたので開始し、現在2台体制で運用しています。
当院は外科系全体でロボット支援手術に取り組んでおり、2021年1月31日時点で手術症例は1,100件に達しました。
ロボット支援手術が2020年9月に1,000件を超えたため、手術支援ロボットを開発したIntuitive Surgical社から表彰されました。手術数が1,000件を超えている四国エリアの病院は2021年6月現在でもあまり多くありません。
手術実績 泌尿器科
前立腺がん
ロボット支援下前立腺全摘術 943件:2012年11月~2023年9月
ロボット支援手術が最も早く保険適用されたのは前立腺の手術であり、2012年から当院では県内で最も早く手術が開始されています。
出血が少なく手術時間も短くなり、1日の実施回数が増え、2020年、2022年では年間100件を超過しています。膀胱頚部温存や神経温存で積極的に禁制の改善を試みています。
腎がん
ロボット支援下腎部分切除術 207件:2016年4月~2023年9月
ロボット支援下腎摘除術 5件:2022年4月~2023年9月
腎がんの中でも小径の腫瘍や浸潤転移のない腫瘍に対して腎部分切除術を積極的に行い、腎機能の温存を心がけています。ロボット支援手術となってからは3Dでの立体視が可能となり、従来困難であった腎門付近での腫瘍切除も安全に実施できています。
腎がんの中でも部分切除ではない腎摘除術は腹腔鏡手術を行いますが、2022年4月からロボット支援下腎摘除術が保険適用となり、当院ではより難易度の高い症例に導入しております。
膀胱がん
ロボット支援下膀胱全摘除術 79件:2018年4月~2023年9月
これまでは内視鏡下で膀胱は摘出し尿路変更は体腔外(腸を外に出して)で操作を行っていましたが、ロボット支援手術になって大きく変わったことは、体腔内での操作が容易なため尿路変更も体腔内で可能になったことです。結果的に早期離床が可能となり、良い結果へとつながっています。
腎盂尿管移行部狭窄症
ロボット支援下腎盂形成術 15件:2020年2月~2023年9月
ロボット支援下腎盂形成術とは、生まれつきの腎盂尿管移行部狭窄症に対する手術です。腎盂と尿管のつなぎ目が尿管自体で狭かったり、周囲の血管に圧迫されて狭くなるため腎臓が腫れてくる病気です。腰痛、腎盂腎炎、腎機能低下を起こします。腎盂と尿管を切り離した後、尿管の狭い部分を切除して再吻合する手術を行います。血管が邪魔している場合には吻合する時に尿管を血管の前側に移動させます。
以前は腹腔鏡で行っていましたが、2020年4月からロボット支援手術が保険適用になり、ロボットの繊細な動きにより縫合操作の確実性が高く、良好な術後経過となっています。
骨盤臓器脱
ロボット支援下仙骨膣固定術 73件:2020年10月~2023年9月
女性の方で、膣口から臓器が脱出する病気です。股間にゴムまりを触る感じです。お産を2回以上した方に多く、骨盤底筋が緩んで子宮、膀胱、直腸、小腸などの臓器が膣口から出てきます。子宮を摘出したり弱くなった膣壁を縫縮するような手術がありますが、再発することが多いです。ロボット支援下仙骨膣固定術は、膣壁の周りをメッシュで補強した後、仙骨へ吊り上げる方法で骨盤臓器を正常な位置に復活させることができます。
以前は腹腔鏡で行っていましたが、ロボット支援手術が保険適用になり、手術時間が短縮されました。2023年9月まで腹腔鏡と合わせて160例を超えています。すぐに結果が出る手術であり、術後の経過は良好で患者さんに喜んでいただいています。
腎盂尿管がん
ロボット支援下腎尿管全摘術 11件:2022年4月~2023年9月
腎盂がん、尿管がんに対して腹腔鏡下手術を行っていますが、2022年の4月からロボット支援手術が保険適応となりました。症例に応じて、腹腔鏡手術かロボット支援手術を選択しています。
ロボット支援手術のメリットとして傷が小さく痛みが少ないこと、また手術時間の短縮が期待されております。
手術実績 消化器外科
胃がん
ロボット支援下胃切除術(胃切除・胃全摘) 173件:2017年8月~2022年10月
胃がんの中でも早期胃がんは腹腔鏡による手術が標準治療のひとつに位置付けられていて、その実施割合は全国的に増加しています。当院は例年、中四国地域でも胃がん手術件数は上位になっており、早期胃がんのみではなく進行胃がんにも行われてきました(厚生労働省『DPC導入の影響評価に係る調査「退院患者調査」の結果報告』参照)。
ロボット支援下胃切除術は腹腔鏡手術がバージョンアップされた手術ですが、高いレベルで行うには腹腔鏡手術の技術、経験の裏打ちが必要です。消化器外科では多数の腹腔鏡手術実績もあり、速やかにロボット支援手術の導入が進んできました。2017年8月に開始後、2022年10月までに173件の同手術が実施されました。各診療科交代でロボット支援手術システムを使用するため、全ての胃がん手術をロボット支援下で実施できているわけではありませんが、それでも2021年1年間では53件実施しています。
現在、同手術の術者は3名体制です。消化器外科では内視鏡外科学会技術認定医も多数養成されており、今後、ロボット支援手術をさらに拡充する予定です。
大腸がん(直腸がん、結腸がん)
ロボット支援下直腸切除術 231件:2013年5月~2022年11月
ロボット支援下結腸切除術 15件:2013年5月~2022年11月
2022年に結腸がんのロボット支援手術が保険適用となり、直腸がんと併せて全ての大腸がんが保険適応となりました。直腸がんは狭い骨盤深部で正確な手術操作が必要であり、ロボット支援手術が最も有用な領域の1つです。ロボット支援手術によって、肛門温存だけでなく排便機能、排尿機能、性機能などの機能温存が可能となり、生活の資(QOL)を保つことができます。
当院はロボット支援下直腸切除術を2013年に四国で最初に開始し、他臓器合併切除や側方郭清も行っています。また当院は、直腸がん、結腸がんロボット支援手術の「症例見学施設」に認定されており(中国・四国・九州地方において数少ない認定施設)、新たに直腸がん、結腸がんロボット支援手術を始める病院、チームの教育をしています。
患者さんのためにロボット支援手術の利点を活かし、機能温存および根治性の高い精密な大腸がん手術を施行していきたいと考えています。
膵がん
ロボット支援下膵体尾部切除術 11件:2021年11月~2023年8月
ロボット支援下膵頭十二指腸切除術 7件:2023年3月~2023年8月
2020年度の診療報酬改定により、膵切除術について厳しい施設基準を満たした病院に対しては、ロボット支援手術が保険診療の対象となりました。
とりわけ「ロボット支援下膵頭十二指腸切除術」は、特に高度な技術を必要とするため、日本で本手術を施行できる医療機関はまだあまり多くありません。愛媛県内で保険適用となっているのは当院のみで、四国内でも当院を含め2施設のみとなっています。
※2023年8月現在:腹腔鏡下膵頭部腫瘍切除術(内視鏡手術用支援機器を用いる場合)の施設基準
なお、四国内では当院が初めて保険適用の施設基準を満たし、以後順調に手術を施行しています。
手術実績 呼吸器外科
肺がん
ロボット支援下胸腔鏡下肺悪性腫瘍手術 36件:2019年7月~2021年3月
2018年度からは呼吸器外科領域においてもロボット支援手術が保険適用となり、当院でもロボット支援手術数の割合が増加しています。呼吸器外科の古川は、呼吸器外科医としては四国で数少ない日本ロボット外科学会 Robo Doc pilot(国内B級)を取得しています。
縦隔腫瘍
2018年度から肺悪性腫瘍手術とともに縦隔腫瘍手術もロボット支援手術が保険適用となりました。今後は当院でも縦隔腫瘍手術を導入予定です。
治療体制
医局長
泌尿器科に在籍しているすべての医師がロボット支援手術のサーティフィケート(ロボットでの手術操作資格)を持っています。うち5人はロボット支援手術の指導医資格を有しており、指導医と有資格者がペアになり手術を担当しています。泌尿器科では800件以上のロボット支援手術実績がありますが、手術前カンファレンスで手術適用や術式などを検討し、手術に臨んでいます。
前立腺がんは特に手術適用の見極めが重要ながんで、低悪性度の場合など手術による介入が必ずしも予後に寄与しない可能性もあるため、治療者側での術前検討したうえでの患者さんへのインフォームドコンセントが重要であると考えています。
消化器病センター長
消化器外科では、上部消化管、下部消化管、肝胆膵、3グループに分け、専門性を持たせた臓器別診療体制をとっています。腹腔鏡下手術を積極的に取り入れ、患者さんにとってより良好な整容性の得られる低侵襲な治療を行っています。上部、下部でロボット支援手術を施行しており、新型コロナウイルス感染症の影響で延期になっていますが、肝胆膵でも近日開始予定です。
呼吸器外科主任部長
これまでは古川だけがロボット支援手術の術者を担当していましたが、2021年3月には畑地もロボット支援手術のサーティフィケート(ロボットでの手術操作資格)を取得しました。
今後、より一層の手術手技の質向上を目指していきます。ロボット、胸腔鏡、開胸のうち、最適なアプローチ方法を選択するために、病状や術式、患者さんの体格などを詳細に検討しますが、根治性、安全性を確保することが最優先であることは変わりません。
よくあるご質問
- Q1.
- ロボット支援手術を受けたい場合はどうしたらよいですか?
- A1.
- ご希望だけではロボット支援手術を行うことはできません。患者さんの状態や手術リスク(全身状態の悪い方、体力の低下を認める方など)を鑑みた上で、治療適用を判断しますので、まずは主治医にご相談ください。
- Q2.
- "ロボット手術"と聞くと怖いのですが、ロボットが手術をするのですか?
- A2.
- 手術を行うのは、あくまでも認定資格を取得しトレーニングを積んだ外科医自身です。今の手術支援ロボット自体には知能はなく、もちろん意思も持ちません。
外科医自身がロボットを道具として使用することにより、従来の鉗子操作の制限を緩和し、精度を高めることが可能となり、より質の高い手術を提供することに役立てています。 - Q3.
- 高齢でもロボット支援手術を受けられますか?
- A3.
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年齢は関係ありません。ロボット支援手術は、傷口が小さい低侵襲手術であるため、開腹手術や開胸手術よりも患者さんへの負担は小さく、ご高齢の方には向いている手術とも言えます。一方で、ご高齢であると心不全など複数の疾患を持つ可能性が高いことも事実です。
そのような場合にはロボット支援手術を受けることが難しいこともありますので、担当医が患者さんと十分に話し合って、決めさせていただきます。当院は総合病院であり、多数の診療科に多くの専門医が在籍していますので、必要時には他科と協議しながら検討していきます。 - Q4.
- 費用はどれくらいかかりますか?
- A4.
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高額療養費制度をご利用の場合、負担を減らすことが可能です。
※70歳以上の方の上限額:2018年8月診療分から
適用区分 ひと月の上限額(世帯ごと) 外来(個人ごと) 現役並み 年収 約1,160万円~
標報83万円以上/課税所得690万円以上252,600円+(医療費-842,000)×1% 年収 約770万円~約1,160万円
標報53万円以上/課税所得380万円以上167,400円+(医療費-558,000)×1% 年収 約370万円~約770万円
標報28万円以上/課税所得145万円以上80,100円+(医療費-267,000)×1% 一般 年収 156万円~約370万円
標報26万円以下/課税所得145万円未満18,000円
〔年144,000円〕57,600円 住民税非課税等 Ⅱ 住民税非課税世帯 8,000円 24,600円 Ⅰ 住民税非課税世帯
(年金収入80万円以下など)15,000円 ※69歳以下の方の上限額:2018年8月診療分から
適用区分 ひと月の上限額(世帯ごと) ア 年収 約1,160万円~
健保:標報83万円以上
国保:旧ただし書き所得901万円超252,600円+(医療費-842,000)×1% イ 年収 約770万円~約1,160万円
健保:標報53万円~79万円以上
国保:旧ただし書き所得600万円~901万円167,400円+(医療費-558,000)×1% ウ 年収 約370万円~約770万円
健保:標報28万円~50万円以上
国保:旧ただし書き所得210万円~600万円80,100円+(医療費-267,000)×1% エ ~年収 約370万円
健保:標報26万円以下
国保:旧ただし書き所得210万円以下57,600円 オ 住民税非課税者 35,400円 入院時の食事負担や室料等自費分の費用は含みません。
高額療養費制度について、詳しくは厚生労働省のサイト(外部リンク)をご覧ください。