更新日:2021年3月25日

頭頸部がん

治療方針

原則的に頭頸部癌診療ガイドラインに沿った標準治療を行っています。

内視鏡検査(ファイバースコープ、NBI内視鏡)、超音波検査、CTやMRI検査、PET-CTなどを用いて、病変の広がり、転移の有無を評価し、がんの進行度に応じて治療方針を決定します。進行頭頸部がんの治療は、治療後の機能障害、容貌の変化を伴う場合もあり、個人個人の価値観やニーズに応じて治療方針を決定しております。

頭頸部がんについて

頭頸部がんとは

頭頸部がんの「頭頸部」とは、脳より下方で、鎖骨より上方の領域をさし、顔面頭部から頸部全体がここに含まれます。この範囲に含まれる耳、鼻、口、のど、首などの耳鼻咽喉科領域の部分にできるがんが頭頸部がんです。以下のような多数のがんの種類があります。

  • 口腔がん(舌がん、口腔底がん、歯肉がんなど)
  • 喉頭がん
  • 上咽頭がん
  • 中咽頭がん
  • 下咽頭がん
  • 鼻副鼻腔がん(鼻腔がん、上顎洞がんなど)
  • 唾液腺がん(耳下腺がん、顎下腺がん)
  • 甲状腺がん

頭頸部がんの組織

頭頸部に発生するがんの90%以上は扁平上皮がんという細胞からなります。 比較的まれな組織型としては、唾液腺を中心として粘表皮がんや腺様嚢胞がんの他、頭頸部に発生する悪性黒色腫といった特殊な組織型も存在します。

頭頸部がんのリスク

  • 飲酒歴
  • 喫煙歴
  • EBウイルス感染(上咽頭がん)
  • HPVウイルス感染(中咽頭がん)
  • 頭頸部の放射線照射歴

といったものが主にあげられます。

特に、飲酒と喫煙は頭頸部がん全体の約80%に関与しているといわれており、多量の飲酒歴や喫煙歴がある方は注意が必要です。

頭頸部がんのリスク

前述のように様々ながんの種類があるため、がんができた部位に応じて症状は異なりますが、以下のような症状が継続して生じる可能性があります。

  • 口やのどの違和感や痛みがつづく
  • 口やのどからの出血
  • 飲み込みにくさ
  • 嗄声、息のしづらさ
  • 首のかたい腫れ

診断

検査から診断の流れ

1.受診・診察

  • かかりつけ医からの紹介
  • 他診療科からの精査依頼

2.主な検査

  • 咽喉頭内視鏡(NBI)
    鼻からのどにかけて、細いファイバースコープを通して詳細に観察します。
    NBI内視鏡にて通常光では判別困難な微細な病変や病気の範囲を観察します。
    同時に組織採取を行うことがあります。
  • 超音波検査
    首のしこりの性状を調べたり、リンパ節転移を検索したりします。
    必要に応じて穿刺吸引細胞診を行います。
  • 血液検査
    腫瘍マーカー(SCC抗原など)の測定を行う場合があります。
    ただし、頭頸部がんでは通常補助的診断に留まります。
    主には、手術や抗がん剤を行う際の臓器機能や治療耐性を調べるために行います。
  • CT検査
    がんの進展範囲や転移の有無を調べるために行います。
    必要に応じて造影剤を使用します。
    病期を判断するための基本となる検査であり、大半の方に受けていただいています。
  • MRI検査
    主にがんの進展範囲を調べるために行います。
    必要に応じて造影剤を使用します。
    CTとMRIの画像を総合的に判断し、病気の進行度を判定することがあります。
  • PET-CT検査
    全身の転移検索や、他病変の有無を検索するために行います。
  • 上部消化管内視鏡検査
    頭頸部がんの患者さんは、食道や胃にも病変がある可能性があります。
    病変が複数ある場合は治療方針に大きくかかわります。

3.診断

  • 原発部位(がんの発生場所)
  • 組織型(がん細胞の性状)
  • 病期(Stage1~4)
  • 年齢、基礎疾患、臓器機能

これらをふまえた上で、治療方針を決定します。

組織学的診断

がんの確定診断は、腫瘍組織を少量採取して顕微鏡検査を行って決定します。 可能であれば、内視鏡観察時に局所麻酔下に採取を行います(生検)。局所麻酔下に採取が難しい場合は、入院の上、全身麻酔下に採取を行うこともあります。 疾患によっては組織の採取が難しいものもあり、その場合、超音波ガイド下に注射針で腫瘍細胞を吸引して診断をつけることもあります(穿刺吸引細胞診)。

がんの進行度・病期

内視鏡検査、超音波検査、CTやMRI検査、PET-CTなどの検査結果を総合的に検討し、病変の広がり、転移の有無を評価し、がんの進行度を判断します。

治療

頭頸部がんの治療は大きく分けて以下の選択肢があります。

  • 手術
  • 放射線治療
  • 抗がん剤治療

頭頸部は食事、会話、呼吸といった生活に重要な組織があり、手術によりこれらの機能が障害されることがあります。小さな腫瘍で切除範囲が小さければ障害は軽度ですが、進行がんの手術では、広い範囲の切除が必要となり、大きな障害をきたすことがあります。その場合、腫瘍切除によって生じた欠損部を修復する必要があります。具体的には、体のほかの部分から皮膚や筋肉、骨などの組織を移植する再建手術を行います。

また、頭頸部がんの転移部位として最も重要なのが頸部のリンパ節であり、その制御ががんの治癒率に大きくかかわります。それに対しては頸部郭清術といい、頸部のリンパ節を系統的に切除する手術を行います。

頭頸部がんの多く(扁平上皮がん)は放射線感受性が良好なため、放射線治療は早期のがんに対して根治を目的に行われます。ただし、進行がんの場合は、放射線療法単独では治癒率が低下するため、抗がん剤を併用して治療を行うことがあります。これを化学放射線療法と呼びます。しかしながら化学放射線療法は強い副作用が予想されることから、高齢の方には適応外となることがあります。その場合は、放射線単独での治療を検討します。
頭頸部がんに使用できる抗がん剤は、後述のようにいくつかの種類がありますが、最も汎用されている薬剤はシスプラチンという抗がん剤です。化学放射線療法には、口内炎・のどの粘膜炎や首の皮膚炎、シスプラチンによる悪心・嘔吐、腎機能障害や骨髄抑制による感染といった副作用が起きる可能性があります。治療経過中に口から食事がとれなくなることが予想されるため、通常治療前に胃瘻の造設を推奨しています。
当院では抗がん剤の効果を上げるため、腫瘍を栄養する血管にカテーテルを留置し、経動脈的に抗がん剤を投与する動注化学療法も行っています。また近年、頭頸部がんに対して認可された分子標的薬であるセツキシマブについても、適応に応じて治療に取り入れています。

手術治療の例

原発巣に対する手術(例)

口腔がん 舌部分切除、舌亜全摘など
喉頭がん 喉頭部分切除、喉頭全摘など
中咽頭がん 扁桃切除、舌根切除、拡大中咽頭切除など
下咽頭がん 下咽頭喉頭全摘術、下咽頭部分切除など
唾液腺がん 耳下腺浅葉切除、耳下腺全摘、顎下腺切除

頸部リンパ節転移に対する手術

頸部郭清術

拡大切除後の欠損に対する移植手術

遊離皮弁・有茎皮弁による再建術

化学療法の例

  • シスプラチン
  • 5-FU、TS-1
  • ドセタキセル
  • セツキシマブなど

発生部位別の主な根治治療の選択肢(概要)

扁平上皮がん

口腔がん 手術
上喉頭がん 放射線/化学放射線療法
中咽頭がん 手術または放射線/化学放射線療法
(場合により導入化学療法、動注化学療法)
下咽頭がん
喉頭がん
鼻副鼻腔がん

非扁平上皮がん

唾液腺がん 手術
甲状腺がん

根治治療の選択法(概要)

外科的切除可能 外科的切除不能
手術治療 非手術治療
標準治療 外科的切除
(+術後補助療法)
化学放射線療法
放射線療法
その他の試験的治療 分子標的治療
導入化学療法
動注化学療法

頭頸部がんに対する根治治療としては、大きくわけて手術もしくは化学放射線療法/放射線療法がありますが、どちらを選択するかは根治性、治療後の機能、年齢や臓器機能などを踏まえて総合的に判断します。進行度に応じてそれらを組み合わせた治療を行うこともあります。

ただし、口腔がんや、非扁平上皮がんである唾液腺がんや甲状腺がんは、放射線感受性が低いことから通常手術治療が第一選択となります。また、上咽頭がんは、解剖学的に外科的切除が困難な場所であることから、化学放射線治療が行われます。

遠隔転移がある場合や、治療後に再発転移を来した場合、全身状態・臓器機能が不良な場合は、根治治療の適応とならないことがあります。その際、化学療法や分子標的治療、緩和治療といった治療を考えます。

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