更新日:2021年3月25日

小児固形腫瘍

小児固形腫瘍について

脳腫瘍

脳腫瘍は小児がんの中で白血病に次いで多く、固形腫瘍では最も高頻度の腫瘍です。小児脳腫瘍の特徴としては、次のものが挙げられます。

  • 症状
    頭痛と嘔吐が多くみられます。吐き気は比較的少なく、早朝や体の向きを変えたときに噴射状に嘔吐します。その他の症状が見られなければ、一般的な病気である感冒や自家中毒と診断される懸念があります。
  • その他の症状
    歩行時にふらつく、目つきがおかしい(斜視)、発熱の持続、興奮しやすい、寝てばかりいる(傾眠傾向)などもあります。ホルモンの問題として異常な食欲、年齢不相応に二次性徴が早く来る(思春期早発)や多飲多尿(尿崩症)などがあります。また、急に成績が悪くなることやけいれんが最初の症状のことがあります。
  • 6歳以下の乳幼児では頭の大きさ(頭囲)が大きくなることがあります。
  • 一般に大人に比べると症状の進行が速いことが多いようです。
  • 大脳と小脳との間は膜状の物で隔てられており、これをテントと呼びますが、小児の脳腫瘍はテントの下に多く発生し(約6割)、なかでも体の真ん中付近(正中部分)から発生することが多いようです。

その他の固形腫瘍

主な固まりを作る小児がん(固形腫瘍)を以下の表にまとめました。それぞれの種類により起こりやすい年齢や発生しやすい場所が異なります。また治療法も異なりますので、小児外科を初めとする外科医と小児科医が一緒に治療に携わります。

主な固形腫瘍の特徴(脳腫瘍以外)

  頻度・特徴 臨床症状 検査・診断 予後因子 代表的な治療方法
網膜芽細胞腫 2歳以下が70%
遺伝性あり得る
両眼性が25~30%
家族性が約40%
瞳孔が白く光る70%
斜視13%
眼底所見
全身骨X線
骨髄・髄液検査
遺伝性
両眼性
病期(ステージ)
眼球摘出
化学療法
局所療法(レーザー等)
局所放射線
肝芽腫 3歳以下が50%
未熟児に多い
痛みのない腹部の腫瘍
腹痛、発熱
体重減少
黄疸、貧血
腹部エコー
腹部CT/MRI
胸部X線/CT
αフェトプロテイン
腫瘍が全摘出できるかどうか
組織型
JCCG(日本小児がん研究グループ)肝腫瘍委員会(JPLT)プロトコール
神経芽腫 乳児期と3~4歳の二峰性、5歳未満が88%
マススクリーニング休止後発見数は半減
腹部の腫れ
発熱・貧血・体重減少・ふきげん等の全身症状
骨・関節の痛み/歩行障害
咳/呼吸困難
腹部エコー
腹部CT/MRI
腎盂造影
尿中カテコラミン代謝物質
血清神経特的エノラーゼ
発症年齢
発生した場所
がん遺伝子増幅
染色体異常
病理の分類
JCCG(日本小児がん研究グループ)神経芽腫研究委員会(JNBSG)プロトコールまたは米国小児がん研究グループ(COG)プロトコール
ウイルムス腫瘍
(腎芽腫)
1~3歳がピーク
5歳以下が80%
両側性約5%
腹部の固まり88%
血尿18%
胃腸症状13%
腹部エコー
腹部CT/MRI
腎盂造影
胸部X線/CT
病理分類
腎明細胞肉腫(CCSK)
腎横紋筋肉腫様腫瘍(CRTK)
JCCG(日本小児がん研究グループ)腎腫瘍委員会(JWiTs)プロトコール
横紋筋肉腫 男:女比=1.4:1
発症ピークは1~2歳
できる場所で様々
頭頸部35%
泌尿生殖器25%
四肢20%
体幹10%
その他10%
腫瘍エコー
腫瘍CT/MRI
全身骨X線
骨髄・髄液検査
胸部X線/CT
国際分類
病理分類
胞巣型vs胎児型(含ブドウ状型)
発生した場所
病期(ステージ)
年齢
JCCG(日本小児がん研究グループ)横紋筋肉腫委員会(JRSG)プロトコールまたは米国小児がん研究グループ(COG)プロトコール
骨肉腫 半数以上が10歳代
男:女=2:1
大腿
上腕
局所の骨の痛みや腫れ、動かしたときの痛み 全身骨X線
腫瘍CT/MRI
胸部X線/CT
病期(ステージ)治療反応性が重要 NECO(Neoadjuvant Chemotherapy for Osteosarcoma in Japan)プロトコールまたはJCOGグループプロトコール
ユーイング肉腫 10歳代と10歳未満
男:女=2:1
骨盤
大腿
上腕
局所のこぶ・骨の痛みや腫れ、熱感
動かしたときの痛み
全身骨X線
腫瘍CT/MRI
胸部X線/CT
発生した場所
年齢
腫瘍の大きさ
病期(ステージ)
JCCG(日本小児がん研究グループ)ユーイング肉腫委員会(JESS)プロトコール
胚細胞性腫瘍 卵巣
精巣
おしり:乳幼児期発症が大部分
下腹部の腫れ
急な腹痛
嘔吐
貧血
痛みのない睾丸の腫れ
おしりの腫れ
腫瘍エコー
腫瘍CT/MRI
胸部X線/CT
αフェトプロテイン
組織型
病期(ステージ)
腫瘍マーカー
PEB療法(プレオマイシン+エトポシド+シスプラチン)
JEB療法(カルボプラチン+エトポシド+プレオマイシン)
ランゲルハンス細胞組織球症 1.多臓器多発型(MM):乳児期に多く発症
2.単一臓器多発型(SM):幼児期に多く発症
3.単一臓器限局型(SS):年長児
小さな盛り上がった発疹
出血斑
皮下の腫れ
骨の痛みと腫れ
肝臓や膵臓の腫れ
全身骨X線
骨シンチ
頭部・胸部CT
腹部エコー・CT・MRIなど
年齢
診断時の臓器浸潤の程度、治療への反応
JCCG(日本小児がん研究グループ)ランゲルハンス細胞組織球症委員会(JLSG)プロトコール

小児がんの治療についてもご覧ください。

診断

腫瘍生検

腫瘍が見つかったら、まずどのような種類の腫瘍なのかを調べる必要があります。腫瘍の種類によって使う薬(抗がん剤)や治療方針(治療の順番)が異なるからです。残念ながら胃カメラや大腸ファイバーなどの消化器内視鏡が届く範囲にはありませんので、手術により開胸または開腹して直接採取するか、あるいはより傷が小さくてすむ胸腔鏡・腹腔鏡による採取を行うことになります。一般に腫瘍は血管が豊富であり、生検すると出血するため、確実な止血目的、すなわち安全性を重視して前者の方法が選択される場合が多いようです。

腫瘍診断は、他に血液尿検査結果、CT・MRIなどの画像検査結果などと合わせて総合的に行われますが、最終的には採取した細胞を顕微鏡で観察した結果(病理診断)や、その細胞から抽出されたがん遺伝子の解析結果が最重要視されます。結果が判明するのに1週間以上かかりますので、まずこの検査を最優先します。

治療

小児外科の対象疾患

小児外科での診療対象になるのは、主に固形がん(注1)のうち、胸部や腹部など体幹部に発生するがんです。

小児にも乳がん、肺がん、胃がん、大腸がん(注2)などのような乳腺・呼吸器・消化器がんが発生することはありますが、極めてまれです。そのほとんどは、副腎・交感神経幹(脊椎に沿った部分です)に発生する神経芽細胞腫、主に腎臓に発生する腎芽腫、肝臓に発生する肝芽腫、主に性腺(卵巣または精巣)に発生する悪性胚細胞腫瘍などです。また膀胱・膣を含め体のいろいろな部位にできる肉腫(横紋筋肉腫など)も対象疾患です。

  1. 同じ固形がんでも脳腫瘍は脳神経外科、目の腫瘍(網膜芽細胞腫など)は眼科、四肢に発生する腫瘍(骨肉腫など)は整形外科で対応します。
  2. 成人の大腸がんは、その多くはポリープががん化して進行します。小児においても大腸ポリープが発生することがあります。しかし、そのほとんどは若年性ポリープであり、大きくなり血便の原因となり得ますが、単発でがん化することはありません。一方、多発していたり(ポリポーシス)、家族歴のある方はがん化の危険性もありますので注意が必要です。

腫瘍摘出手術

診断に従ってもっとも適切と思われる治療法が選択されるわけですが、腫瘍の種類・進行度によってその後の治療方針、使用する抗がん剤の組み合わせが決まります。大まかな方針として、腫瘍が小さく、転移も認めず、他の臓器や重要な血管を犠牲にすることなく切除できる場合には手術を優先します。しかし肉眼的にすべて切除できた場合でも、切除した腫瘍の悪性度に従って術後の化学療法が必要になります。

一方、安全に全部切除できないと判断された場合、まず前述した腫瘍生検を行い、その結果により適切な化学療法を行います。複数回の化学療法の結果、腫瘍が反応して小さくなり安全に切除できると判断された場合には、再度手術を行います。腫瘍が完全に摘出できても、その後地固めの化学療法や放射線療法、末梢血幹細胞移植などが必要になる場合があります。

治療中の移動について

病棟は小児外科と小児科との混合病棟です。入院から退院まで病棟を変わることなく、一貫して小児専門スタッフの管理下で治療を受けることができます。

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